華麗なカレンダーを眺めながら、彼は枯れ果てた笑みを湛えた。その体に加齢臭が覆っていることを彼は知っている。
いつもの時間に起きて、いつもの電車に乗り、年のわりに可憐な瞳をまばたかせ、カレッジに向かう。
彼の仕事は大学教授である。
研究室に着き、カレイドスコープを覗き込むように顕微鏡を覗きながら、彼は考えた。昼飯は鰈が食べたい。
いつものことである。昼飯だけが彼の一日における唯一の楽しみなのだ。
鰈が食べたい。
彼は今度、実際にそれを口に出して言ってみた。昨夜の酒にかれた声が情けなく研究室に響く。
ふと、彼は虚無感を感じる。
この苛烈な世の中を争い抜き、ここまで来た。大学の教授にまでなった。
けれど、どうだ。
私は今、この研究室で一人、昼飯に鰈が食べたいなどと考えている。
窓の外を見やると、枯れ枝にスズメがとまっている。彼は呟いた。
人生とはなんだろうな。
口から、昨日食べたカレーライスのにおいがした。枯れ枝を蹴って、スズメが飛んでいった。
彼はいわゆる、おっさんであった。
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